▶︎ 「みんなでやること」の意義

駒崎 元々、フローレンスは、様々な社会課題を解決していくための事業を一団体で行なってきていました。今回は、ご家庭が経済的に困窮したり、養育不全に陥ったりすること自体の予防を目的としているため、テーマが非常に大きかったんです。
“こどもに食品を運ぶ”こと自体はシンプルですが、実際に食品を届けるまでには様々な工程があるわけです。
もしかしたら、フローレンスだけで完結することもできたのかもしれません。ただ、そうすると拡がりが限定的になってしまう。全国で似たようなモデルを生むためには「フローレンスだからできた」じゃダメで。それぞれが得意分野を活かして協働するモデルを作ることで、誰にでもできる仕組みに変えられるんじゃないかと考えたんです。


▶︎ 物流の協働先を見つける自信は全く無かった

駒崎 こども宅食をやろうと決めた時に、一番大切にしていたのは「本当に支援が必要な人に届ける」ということでした。
その時に、「行政なら、経済的に厳しい状況のご家庭をピンポイントで知っている」と思ったんです。
行政と組むことができて、物流ができて、食品があれば・・・いける!と思いました。そして、行政に声を掛けて、パートナーになっていただいたところからスタートしました。
ただ、物流の協働先に関しては、全く心当たりも見つける自信も無かった。
自分たちで自転車で届けようかなと思っていたくらいです。でもやっぱりできればそれを生業としている会社さんと組みたいなあ。と思っていました。そんなとき、ご縁があって、ココネットさんをご紹介いただけたんです。

 

▶︎ 目指したのは「体温が乗った物流」

河合 会社の方針として、「やろう!」と決めていました。
ただ、よくよく中身を聞いていく中で、「これはしっかりと考えて対応しないといけないな」と感じました。
ダンボールをそのままを渡すと、そこで関係が終わってしまう。ダンボールを開けて、中の袋を取り出して…という「間」が会話を成り立たせるんです。

駒崎 目指したかったのは、単なる物流ではなく、いわば「体温が乗った物流」。そこで会話が生まれ、ご家庭の様子を知ることができる。ここが大事なところでした。それはココネットさんだったからできたと思っています。

河合 我々も、「こういうところに強みが活かせるんだな」というのが、頭では解っていながらも初めて肌感覚として理解したところがあります。
今までも、会社として社会貢献を大切にし、人と人とのコミュニケーション、つながりを大事にしようと言ってきていたし、スタッフにも実践してもらっていましたが、まさかこういう形に繋がるとは思っていなかった。
とはいえ、今がベストだとは思っていません。まだまだやらないといけないですね。

 

▶︎ 物流で社会貢献できた事例

河合 今回は「物流が社会貢献をする」という点で、うまく具体化できたと思っています。グループでも、これまで排気ガスを減らすための取り組みはやってきましたが、ほかの企業や団体と一緒に取り組むということは、なかなかできていなかったんです。そういう意味では本当にうまく連携できたと思っています。

 

▶︎ ソーシャルワークの先端を担う「ハーティスト」

河合 我々の立場は、こども宅食において、一番ご家庭と接します。そこが非常に重要な役割だなと。これは、実際やっていくに従って、実感してきたことです。

駒崎 そうですね。ご家庭との関わりの中で、非常に重要な役割を担っていただいています。

河合 我々が対応するときに大事にしているのは、ここが丁寧か否か、みたいなそういうレベル感じゃないんです。
毎朝社内で声に出して読んでいる行動指針の中に「サブファミリー・準家族」という言葉があるんですが、この言葉は、家族じゃないけど、準家族。家の中にずっとはいないけど、一緒にいるときは家族のような関わり方を心がけよう。というものです。
例えば、声の掛け方や、喋り方、目線の遣い方。今回やってみて、もっと勉強していく必要があると改めて思いました。ココネットの利用者さんにはご高齢の方が多いんですが、こども宅食の利用者さんへのコミュニケーションは、ご高齢の方に対してのそれとは違うんですよね。

駒崎 配送にご一緒した時に仰っていましたね。

河合 はい。ご高齢の方は「話したい」という方の割合が多いのですが、今回はそうじゃない。ドアを開けた瞬間に、察知して、声を掛ける。その中で距離感を見定めていく必要があります。
ぐいぐい話しかけると警戒心が生まれるし、かといって距離を取りすぎると今度は冷たい印象になる。このあたりはもうちょっとチャレンジしていかないといけないです。「スープの冷めないの距離感」が理想だと思っています。

駒崎 本当に、ココネットさんは、こうしてソーシャルワークの一端を、それも先端の部分を担っていただいていますね。

河合 我々の行動規範に、目配り、気配り、耳配りといった内容があるんですけども、一目見た瞬間、一言発した言葉から、我々が何を感じるのか。それによって、どう行動をするのか。そうしたところが、とても重要だと思っています。

▶︎ 「事故型」から「予防型」へ

駒崎 実際に車に乗って配送に同行して、想像以上に食品を喜んでいただけることに驚きました。配達に行って良かったです。

河合 当社のハーティストが仕事を続けている理由の多くが、「実際に喜んでいただける姿を見ることができるから」というものです。また、何度も配達に行く中で、「ちょっとお茶飲んでいきませんか?」と言っていただけたり、お菓子をいただくこともあったりします。ありがたいことです。そして、やっぱり対面するからこそわかることがあります。

駒崎 実際、いろいろな情報を上げてもらう中から得られるものは大きいです。行政の場合、基本は「来てください」というスタンスなので、来なかったら「問題はない」ということになる。
もっと言うなら「窓口に来て、書類をちゃんと書いたら受理します」というモデルなんです。でも、本当は何かある前に予防できるのがベスト。医者にかかるのもそうですよね。病気になってから病院に行くと言うケースが圧倒的に多いと思うのですが、本来はその前にターニングポイントがあるはずなんですよ。そういう事例を作ることができているのが今回です。今はまだ事例としては珍しいです。こうしたスキームを作るのはとても大変なんですが、きちんと「手当て」をすれば、事故型から予防型に変わっていくこともあります。

 

▶︎ 対話を重ねて文化差を埋めていく

駒崎 協働する中で難しさを感じることもあります。それは、各団体ごとに文化が多様であるということです。まずはやってみて、改善を重ねていく。」この動きが許される組織と許されない組織があります。
結果として成功ならそれで善しとする組織があれば、手続き的な整合性を何よりも重要視する組織もあります。
大事なのは、お互いの文化を理解しながら、最大限それぞれの価値観を尊重しつつ、意見をぶつけ合って共に進んでいくこと。ベースになるのは対話です。それも、相当の数を重ねていきます」

河合 本当にいろいろなコミュニケーションがありますよね。それぞれがチームの仲間でもあるので、互いの立場を理解しつつ、言いたいことは言っていかないと前に進まないです。

▶︎ 「思い」が一緒かどうか

駒崎 子どもたちの環境を良くしたいという思いは、協働に関わるみんなが一緒なんです。その山の登り方が違うというところで、喧々諤々やっている。同じ思いを持ちながら、しっかりゴールを目指して行く。ここはぶれていません。

河合 少し話が逸れますが、協働となったとき、企業側からすると、どこに参画していいのかわからないんです。今回のパターンは別ですが、思いがあって、山が見えていても、どこにどう関わればよいのかがわからない。CSR参画の担当で、参画の仕方で悩んでいる方は多いと思います。

駒崎 関係のない分野ではなくて、本業の強みを活かすのがすごくいいなと思う。例えば、突然森を作りましょうとかいう話が出ても、それは関係ないかなと(笑)。やはり、事業に即した活かし方があると思います。今回はそこがかみ合ったなと思います。

河合 ココネットが引き続き関わりたいと思っているのは、シングルマザーの方たちの就労の部分です。実際、当社のハーティストにも活躍いただいている方が多いです。これがサービスなのかどうかはわかりませんが、生活の基盤となる就労の部分で支援をしていきたい。

▶︎ 米が不足している地域と他のものが足りない地域

駒崎 こども宅食は全国展開を検討しており、そのための戦略も考えています
実は、ありがたいことに既にインスパイアモデルが出てきています。見ていて思うのは、地域ごとにそれぞれやり方があるのだということ。
地域が変わると、今までのスキームがそのまま使えないんです。どういうことかというと、地域によって、足りない支援が違うからなんです。
こども宅食の場合だと、東京では倉庫が足りなかった。だからその辺りは辛かったんですけど、地方はそんなことなかったりします。食べ物でいえば、東京だと米が不足している。だけど他所だと他のものが足りない。こうした地域差を見ながら足りないところは補えるように、我々がサポートの中心になっていければと思っています。

河合 ご不在の問題なんかは地域差があります。折角行ってもいらっしゃらなくて…という話は運送業ではよくある話ですが、これが地方によってはご不在の問題はなかったりするんです。
インターホンを押すまでもなくガラガラと玄関を開け「すみませ~ん!」と声をかけるところもありますから。地域ごとにアナログなノウハウが溜まっていきます」

▶︎ 今後は生鮮食品も扱いたい

河合 12月の配送からは、たまねぎやじゃがいもなどの野菜の配送にチャレンジしますが、今後は様々な生鮮品を扱えると良いですよね。
配達に行ってダンボールを開けたときに、お米があってカレーのルーがあって。という中身を目にしたときに、「ああ、ここにニンジンとジャガイモがあったら野菜のカレーでご飯を炊いて食べられるよなあ。そしたらすごくいいなあ」って思っていたんです。今回野菜を送れることになってよかったです。
駒崎 生鮮食品が増えたら、きっとすごく喜んでいただけますよね。

河合 実は最近、水耕栽培をやろうという話が社内で出てるんです。水耕栽培だとタイミングに合わせて成長をコントロールできる。うちは在庫管理の仕組みとか入出庫とかは得意分野だから、どこかのオフィスビルの一角でもいいかも知れない。そうして、栄養価の高い野菜を提供できるといいな。

駒崎 これからも力を合わせて、ご家庭に喜んでもらえる仕組みにしていきたいですね。

 

 

 

◻️ 編集後記
協働に関わる団体、企業のバックグラウンドは多種多様。しかし、今回お話を伺う中で、「想い」のベクトルは同じ方向を向いているということがよくわかりました。

共通の想いを持っているということは、すなわち協働の根本。そして、協働のキモとなりベースになるのは「対話」です。今後も対話を重ねていき、さまざまな想いをカタチにしていく様子を追っていきたいと思います。(今國)